Ultra Light Hiking Goods  -Shelter-
2014.8.13更新
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自立式テントからの脱却

 一般的な登山スタイルでは、屋外で宿泊するためには、自立式テントでなければならないといった風潮が半ば常識になっています。 このためか日本の山岳テント場では、季節を問わず自立式テントを使っている方がほとんどです。 逆に、タープやビビィサック、フロアレス、ツェルトを含めて、非自立式のシェルターを使用しているのは、5%にも満たないのが現状のようです。 これは、夏季、人気のある山小屋テント場での印象です。 ただ、ULシェルターのスタンダードであるフロアレスシェルターを標準に据えると、また違ったものが見えてきます。

 フロアレスシェルターは、大概がフロアやバグネットをオプションがあり、それらを着けるとテント顔負けの軽量・快適なシェルターになってしまいます。 さらに、自立式テントのようにポールによる構造の束縛がないため、圧倒的に自作や他社製品を流用しやすく、自分のスタイルや想定される環境に合わせられるシェルターなのです。 逆に極端に言ってしまえば自立式テントとは、メーカーが用意した「セット品」。 『フロアもバグネットも、前室も付けて耐候性まで上げました、セットで〜kgだけど、ひとつ買わない?』って商品なワケです。 バグネットが必要と言い切れるだけの虫がいるのか?フルサイズのフロアや、暴風・積雪に対応する耐候性がないと絶対に眠れないのか?

 なぜ楽に歩けることを犠牲にしてまで、キャンプの快適性を重視してしまうのでしょうか。 これには、日本の湿潤で雨が多い気候と、人と違うスタイルを恐がる気質もありますが、何といっても最悪の状況に合わせて装備を選ぶ登山風土にあると思います。 このような中で、漠然とした「登山の危険性」については多く論じられるのに、一歩踏み込んだ「いま、そこにある危険」を置き去りにしている感が否めません。 その結果、質実剛健とか万全の備えと言えば聞こえがいいですが、我々が陥りがちな中庸で無難なもの(= 自立式テント)を選んでいるのではないでしょうか。

 『それでも自然は人間の想像を超えるものだから、備えあれば憂いなし』という意見も否定しません。 これから行く山域・時期・気候から考えて、荒模様も十分に考えられるなら山岳テントで行くべきです。 でも、この時期・気圧配置で「降雨の有無」は分からずとも、「最悪の事態に陥る可能性は極めて低い」と予想できることはあると思います。 こういうときは、ウルトラライトなシェルターで十分です。予想を裏切られて天候が悪化しても、テント場で手間が増える・居心地が悪い・少し気を揉む程度。 歩くときの快適さに比べれば、どうということもありませんし、ましてや命に関わるなんてことはありません。
 私がそう断言できるのは、『一昔前の山岳テントは、みんなULシェルターやツェルトみたいな形だった』という事実があるからです。 残念ながら私は聞いただけの知識ですが、懐かしいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。 つまりULシェルターとは、昔ながらの構造デザインを現代の素材で作り直したテントなのです。 躊躇する気持ちは分かりますが、危惧するほどではないのも分かるかと思います。山で使えない理由がありません。

 かと言って、ULシェルターは、手放しに勧められるものではないです。 「せっかく取れた連休だから、多少は天気が悪くても山へ行きたい」ときは、一般的な山岳テントのほうが安全です。 天気がよいときを狙って登山できるなら、ULシェルターだけでも大丈夫かもしれません。天気を選べないなら、山岳テントとULシェルターの2つの天幕を所有しましょう。

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シェルターのタイプを決める

 テントでもシェルターでも、これらは登山スタイルや想定する環境を決定付け、組み合わせの観点からも他に大きく影響する装備です。 そして移動中は荷物でしかないのに、固定概念や思い入れが強くて装備と発想の転換が難しく、「重い」といいながら他の細々とした軽量化で満足している自立式テントユーザーが多いこと! 具体例とレポートは以下にあげていきますが、その前にシェルター本体についておさらいしてみましょう。 タープ系を日本の山岳フィールドで単体使用するのは無理があります。同様にビビィサックも厳しいと思うので、これらは組み合わせるのがベター。 表を参考にするなら総合点ではなく、あくまで「何を重視するか」で選びましょう。 「すべての機能をバランスよく」欲しがっているなら、まだまだ旧来通りの固定概念から脱出できていません。 こういう表現は嫌いなのですが、どれか迷うならフロアレスシェルターをオススメしておきます。


▲上表:管理者の独断と偏見で強引に順位付けしたもので、1点の価値は一定ではありません。
また、数値の合計が大きいシェルターがオススメとかバランスがよいわけでもありません。


●軽さ(シェルター本体)
 趣旨からして、シェルターの軽さは大切だが、実は宿泊用品の全体で何gかのほうが重要である。 自立式テントでは、メーカー純正のグラウンドシートを使うとかなりの重量増になる。 軽量シェルターでは特に、必要なペグの本数。同タイプのシェルターでも製品によって違うので注意する。 あとはシュラフカバーの有無と、グラウンドシートの必要量も押さえておこう。
●荒天時の居住快適性
 眠っていない時に、小雨・微風以上でもストレスが少なく過ごせるか。 好天時は温湿環境によって、シェルターの風抜けや開放感、前室の広さも見逃せなくなるし、そもそもシェルターの外に居ればよい。
●換気性能・結露対策の容易さ
 タープが最も結露の問題が少ない。朝露で濡れても、激しく揺らせば大半は落とせる。 フロアレスでも同様だが、タープより作業性は劣る。 また結露しても、最も確実な「拭き取れる」点と、換気性能が重要。
●耐寒性
 生地の違いで保温性が大きく変わるとは考えにくい。寒さを凌ぐには、密閉構造と人数に対する狭さが重要となる。 この点でビビィサックがトップだが、シュラフカバーで耐寒性を上げるという考え方もある。
●設営の自由度
 ビバーク対応能力。一般登山で岩壁登りのようなシビアな設営を強いられることは稀だが、突発の緊急事態でも細引きと樹木などで適当に設営できてしまうのは、やはり重宝するはず。
●遮蔽性(プライバシー空間の作りやすさ)
 プライベート空間があって、中で寝転んで読書するだけなら、ツェルトでも十分である。 着替えていることすら外から分からないとなると、動いても外幕に体が当たらない広さ・高さと素材の非透過性も必要となる。
●耐風性
 定型で避難用途、背が低いビビィが優秀。次点では自立式が限界点は高い。あとは、半密閉構造なら差は少ない。 タープは行き止まりが出来る張り方だと、入口側からの強風には脆弱である。
●設営面積の小ささ
 日本の幕営指定地でのハマリやすさ。人気の山域では、山岳テント用に区画化されていることも。 高い位置からガイラインを取るタープ等は、他のスペースに御邪魔することも。多くは工夫で解消できるが。
●設営・撤収の簡単さ
 設営の省力化は、贅沢である。ただ、荒天時に素早く設営できるのは重要。 ポール・ペグ・ガイライン・フライの有無から評価した。やはりポールなしのビビィサックが最強だ。 タープは設営が大変だが、撤収は楽である。ポールが複雑な自立式テントは設営・撤収に手間がかかるが、ここは製品によって差異がある。

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小型タープ+防水シュラフカバー

 日本の3シーズンを想定したうえで、軽さ的にもスタイル的にも、まさにウルトラライトといえる組み合わせです。 ここでいう小型タープとは、設営したときに頭上〜胸までを雨から守れる大きさのものを指しています。守れない部分は、シュラフカバーが守っています。 MSRのEウィング(210g)と、モンベルのブリーズドライテック U.L.スリーピングバッグカバー(180g)を足して、重さは390g。しかもこれで完結するシステムです。 なおEウィングはシルナイロン製。キューベンファイバー製の小型タープなら、さらに60gほど軽くできるはずです。

⇒好天候を見込めるとき、1gでも軽くしたいとき、寝ながら夜の自然を感じたいとき。 ⇒ さらに詳しく

フロアレスシェルター

 一番のオススメはフロアレスシェルター。しかもキューベンファイバーなどの超軽量素材を用いたもの。既製品の代表格はゴーライトのシャングリラですがシルナイロン製なので、450gほど。 キューベンファイバー製なら250gとかいう目を疑うような軽さを実現しながら、風雨の直撃に対して完璧な防御壁を作れます。 またバスタブ型フロア&バクネットの別売オプションも大概のメーカーでありますし、内部空間での自由度が高いために自作アイテムによる幕営装備のカスタマイズも可能です。 そのため、工夫次第で3シーズンのほとんどの環境に対応できます。熟達者は積雪期に使うこともあるようです。

⇒広大な前室が欲しい、好天候を長く望みにくい長期縦走など。

ツェルト

 トラディショナルなスタイルを貫く登山家にも認知され、多種多様に張れるシェルターがツェルトです。 好適な条件では中型タープ、荒天ならフロアレス相当というように、柔軟に対応できることが利点です。 ただしツェルトはトラディショナル寄りのアイテム。緊急用に携帯するに足る軽さですが、先鋭的な軽量シェルターよりは重い320gほどです。 日帰り登山からステップアップする方には、すでに持っていることもあるでしょう。生地を重ね合わせることで疑似フロアを作れる点も、フロアレスに抵抗がある人に挑戦しやすいと思います。

⇒緊急対応能力が欲しい、疑似フロアが欲しい、半密閉空間が欲しい

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ウルトラライトシェルターと上手に付き合う

 どんな道具でも、どんな登山用品でも、共通する「根底にある本質」を忘れないようにしましょう。 それは、『道具に対して[使えないレッテル]を付けてしまうのは使い手であり、個人が下した「使えない」評価を、その道具の限界と見なしてはならない。 さらに究極の道具とは、使い手の技術と合わさって真価を発揮した結果であり、技術不足を道具の所為にしてはならない。』ということです。

 とんでもない本質の総論から語りましたが、ウルトラライトな装備で登山するにあたり、シェルターほどただ使うのではなく使いこなすという言葉が当てはまる装備はないと思います。 そう、ウルトラライトシェルターでテント泊を続けるなら、テント場でのちょっとした手間と工夫を惜しんではなりません。 さすがメーカーが用意したセット品だけあって、山岳用の自立式テントは設営するだけでほぼ完璧な就眠環境が約束されます。 『これらの手間や工夫を凝らしたくない』というのが、あなたの登山スタイルの絶対条件なら、大人しく自立式テントを選んでおいたほうが幸せかもしれません。 それで寝られるのは知っているけど、何となく不安という程度だったら、ぜひこちらへどうぞ。 トラディショナル寄りのテント泊装備からなら、1.5kg以上の軽量化は約束されたようなものです。

 ちなみに、『テント泊初心者だから、あまり先鋭的なものは遠慮しておこう…』と考えなくていいです。
もちろん、予備知識は必要です。
いきなり山で使わずに、自宅の庭か公園で試し張りしましょう。
初めての実践なら、なおさら好天候を狙いましょう。
いきなり雪山はダメです。


 …とは思いますが、これは普通の山岳テント泊デビューでも同じこと。 この点を留意すれば、テント泊未経験者が特攻しても全く問題ないです。いきなり北アで5泊6日の特攻した初級者談。
 むしろ、本当の悪天候や積雪期の稜線などで、自立式の山岳テントが必要と言い切れる場面に直面する前に、限界点が少し低いシェルターで経験を積んでおくって考え方もアリかと思います。

<シェルターの幕体には強いテンションを掛ける>

 森林限界より上の岩稜帯でも樹林帯でも、避けて通れないのが降雨、併せて温湿環境にも因りますが日本で避けられないのが結露です。 自立式テントでは、専用ポールが幕体のテンションを維持してくれます。 一方のULシェルターでは、幕体は頂点に寄り掛かりつつ垂れ下がっているだけなので、ガイラインやポールの伸縮で、幕体にテンションを掛ける必要があります。

 Hiker's Depot代表 土屋智哉氏の自著「ウルトラライトハイキング」では、『耐水圧の低い生地でも、テンションを維持すれば水を弾き続ける』ことを、雨傘を引き合いに出して納得のいく説明がなされています。 私個人で傘生地の耐水圧やその理屈を検証したわけではありませんが、傘の生地がたるんでいると生地全体がジットリ濡れたようになるのは、明らかに実感できるところです。 『ツェルト泊に挑戦したけど、少しの雨でも漏水した。やっぱテント。』という会話を聞いたことがありますが、これはその方の設営方法が下手だったか、シームシーリングを怠ったためと思われます。 私がシルナイロンやタイベックのシェルターで幕営したときに、レインウェアを着ずにトイレに行けないような雨もありましたが、シェルター内に漏水したことはありません。

 またULシェルターのテンションを維持することは、結露対策にも有効です。 あ。幕体をピンと張ったからといって、結露が少なくなるわけではないです。 ただ、雨天どころか結露でさえ、ULシェルターでは、その重みで生地がたるんでくるのです。 降雨時のシルナイロン製シェルターで顕著で、『夜分におでこが冷たいと思って起きたら、幕体がたわんで出来た窪地に水たまりができていた』なんてこともあります。 就眠する直前にテンションを再調整するくらいの気構えが必要ということです。

 なお説明不要だと思いますが、ULシェルターには抗雪性(積雪に耐える強度・設計)はないと思ってください。 ウェブには積雪期の樹林帯で使っているブログや動画もアップされていますが、登山熟達者の判断力が問われる究極の選択であることは明白です。 普通の積雪期ハイキングすら経験がないので、その次元に対して私はどうこう言える立場ではありません。

<設営場所:高山帯>


 森林限界より上の標高では、主に対策するべきなのは強風です。 なお、雨が降っても土がないため、床下の水を心配する事態はあまり生じません。虫対策も不要なことがほとんど。
 ULシェルターの耐風性が、自立式テントより劣るのは純然たる事実。 ここで設営場所を工夫することで、最悪の例ではシェルターごと飛ばされる可能性を、 実感しやすい例ではガイラインの緩みと生地のバタつきを、大幅に低減できます。
 北アルプスに代表される高山帯では、尾根がルートで、そこから一歩外れたところに山小屋があり、その周辺と下った場所が幕営指定地ということが多いです。 このとき、アクセスや利便性を重視して山小屋に近い場所に設営しがちですが、この場所は最も強い風が吹くし、風向きも変わりやすいのが普通です。 面倒でも小屋(尾根)から離れた低い場所に設営しましょう。

 なお一般的な登山の観点では、ULシェルターは高山帯での使用に耐えるものではないというのが定説です。 タープ・フロアレス・ツェルトで30泊以上の岩稜帯を経験しているため、私はこの短絡的な線引きには否定的です。 まぁメジャー本や他人へのアドバイスでは語弊と実害が絡むので、それこそ短絡的に『大丈夫』とは表現できないのでしょう。 …とは言え、自立式テントが撤退に至るような強風には、当然ながら耐えられないと考えます。 危険を察知できたら、自立式テントよりも早めに山小屋へ避難するか下山するかの判断・行動するべきものだと肝に銘じておきましょう。

 あと強風対策に必要なのがガイラインによる固定ですが、ペグはまず刺さらないと思っておくべきです。 ロクに固定しない自立式テントユーザーも多く見かけますが、彼らは「テントごと飛ばされる予備軍」。 ULシェルターは「設営=固定」なので、このような慢心はしませんけど。 固定には、サッカーボールくらいの大きさ・両手で運ぶのが大変な重さの石を用いましょう。 ラグビーボールクラスしかないなら、一ヶ所に複数個で対応します。なおはじめから石で固定するつもりなら、ペグは持参しないのが軽量化の鉄則です。

<地面への固定は入念に、人の足に引っ掛けられないように工夫する>


 タープやシェルターというのは、一般には・自立式テントの仲間です。 ただ「非自立式テント」と言うと、ヒルバーグのアクトとか一般山岳テントとしても認知されたものを連想されがちなので、自分はシェルターと分けて呼んでます。 ともかく、設営に際してペグや石での固定が必要不可欠なのが所以。 設営に足る最低限の固定箇所で運用していると痛い目に遭います。ここでもう一つ挙げたいのが、『 自分と他人 』です。

 笑いごとではなく本当に大切なことで、特にツェルトやタープでは、誰かにガイラインを外されたり外出しのポールを倒されると、呆気なく潰れます。 もし中でストーブを使っていたら、大惨事に直結します。「すみませ〜ん」と軽く言われたことがありますが、「謝って済むかぁ!」と怒鳴りたくなりました。 このときは、幕体が潰れた瞬間にたまたま身体とストーブが重なったので、何とか消火して事なきを得ましたけど。

 それ以来は、写真にあるように、細引きロープを張ったライン直下に、わざとらしく木の枝を置いたり、 固定に使えない握り拳くらいの石を並べたりして、ロープの存在を誇示するようにしています。 太くてビビットなカラーのリフレクター入りのロープを使うって手もありますが、1.5mmダイニーマを常用する自分には重量増となるので、現場で工夫って方向性で頑張ってます。 極めて個人的な考えですが、ビール飲んで酔ったテントユーザーでも、ヘッドランプの狭い視界では直前までロープに気付けなかったとしても、変な地面の起伏や石には敏感だと思っています。

<避けたい場所:ヘリポート付近>

 高山帯では、物資の運搬にヘリコプターを使うことも多いです。要は、登山用品は風で飛ばされやすいので注意したいという経験談です。 例によって小型タープ&シュラフカバーで天狗山荘に泊まったのですが、ヘリポート近くに設営したことに気づかず朝に。 縦走最終日で時間も余裕だったため、朝6時を過ぎてもギアを散らかしたまま朝日を見ていたのがマズかった。 そこに「バタバタ…」とヘリの音がしましたが、かなり近くに来るまで何の危機感も抱かず呑気に眺めていたのが、もっとマズかったです。

 ヘリに呼応するように、張ったままのタープがバタバタと音を出して揺れだしたところで、イヤな予感が込み上げてきました。 滝のように叩きつける爆風に圧倒されながら、飛びかかるように自分のタープへ。 つむじ風に捕まり横回転を始めるエアマットとシュラフに押し乗り、 目の前をコロコロと転がっていくスタッフバッグを手足に引っ掛けて、タープとヘリを交互に見ていました。 視界の端には、遠くへ舞っていくグラウンドシート…。

 ヘリがホバリングしたところで、とにかくギアをドライパックに放り込み、マットとシュラフの上に乗せて、シートを回収へ行きました。 シートはテント場端のロープに運よく引っ掛かっていましたが、今度ヘリが離陸し始めたら回収不能になる公算が大きいです。 アルミ蒸着シートなのでロストしても痛くないけど、あんな目立つものをアルプスに置き去りにするわけにはいきません。 いつまた「バタバタ…」と言い出すかビクビクしながら異例の早さで撤収しました。 結局ヘリに因る被害はなかったわけで、いい勉強になりました。あの超暴風を受けてもタープが無事って分かったのは収穫ともいえますし。

 ただ、相当慌てたためか、スクォートPS4をテント場に置いてきてしまいました。気付いたのは天狗ノ大下りの後なので、諦めました。 取り敢えず、山小屋に着いて幕営申請を出すときに、ヘリポートの有無と場所くらいは確認するべきということですね。見えにくい場所にあることも多いので。

<設営場所:樹林帯>

 樹林帯では、おおむね強風対策は高山帯ほどシビアではありません。南アルプスの南部(熊ノ平小屋 以南)では、ULシェルターを使うには最適です。 強風の代わりに気に掛けたいのが、地面を流れる水と、ペグの利き具合、あとは刺す虫対策です。
 高山帯と違って樹林帯は土があるため、大雨が降ると確実に水溜りになります。 よく「水はけのよい場所に設営する」と言われますが、谷筋なんかだと指定地全体が川の様相を呈するから、選んでも限度があります。


 こんなとき、ツェルトの疑似フロアやタイベックのシートなんて完全に無力です。 まぁフロアがあるテント系なら、この事態を「ある程度マシ」にはできます。 しかしテント場が水浸しだと、必ずいくつかのテントで浸水事件が勃発します。 このとき、テント内に侵入してしまった水って撤収のときにどうしているのでしょうか。 目に見える水はタオルで拭き取るとか対処できますが、生地に染み込んでしまった水分は乾燥を待てないはずです。 多くはそのままザックに収納することになるのでしょう。余計な重量を担ぐことになるわけです。 便利なセット品って、対応能力を超えると甚だ不便になるものだと気付かされます。 一方、ULシェルターには、この手の運搬時まで問題を引きずる事態って発生しにくいです。 では何に気をつけるかというと、マットの厚さです。

 樹林帯で私がMSRのネオエアーを使う理由のひとつに、他のタイプに比べて厚みがあることが挙げられます。 銀マット系は厚くても2cmまで、自立膨張系でも2.5cmなのに対して、ネオエアーの厚みは6cm以上あるのです。 これだけ厚みがあると、幕営場所全体が水溜まりになってもシュラフやギアの一時退避場所になりますし、そのまま寝るときもシュラフを濡らしにくいです。

 次いで考えたいのが、ペグの利き具合です。 樹林帯ではペグが刺せないことはありませんが、あまりに刺さりやすいと逆に問題です。 特に、手で押すだけで地面に入っていってしまうようだと、雨を防ぐために重要な強いテンションを維持しづらくなります。 これに対処するには、芝などがあってペグがズレにくい場所を選ぶか、通常より長いペグを用いることになります。 樹林帯では固定にちょうどいい石が存在しないのが当たり前なので、注意が必要です。

 最後に虫対策。なお私は蚊などには愛される体質ですが、結構いいかげんです。…というのも、『寝ている最中だけ防げればよい』と考えているからです。 製品レベルの完璧なバグネットハウスが必要なのは、アリだのクモだのサソリなどの、地を這う虫に対抗する場面だと思います。感染症を媒介する羽虫でもいるなら、また話は別ですが。 私の実感するところでは、刺されて痒くなる程度の蚊や蚋なら、シュラフカバーをキツく絞り、軽く折り重ねておくだけで十分効果があると思っています。 寝ていないときは、虫除けジェルで対策します。

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管理者のULシェルター遍歴

 私のシェルターの変遷というか、構成を述べておこうと思います。冒頭でも述べましたが、これまで幕営用品は一切持っていませんでした。 ここで初めてチョイスしたのが、小型タープ+防水シュラフカバーというスタイルです。 理由は簡単で、HikersDepotさんの影響が大きいですが、軽さが至上命題だったためです(このときは、キューベンファイバーという素材は知らなかった)。
 3泊くらいして手間が掛かること極まりないと感じましたが、私はテントの便利性も快適性も知らないので(^^ゞ 「ウルトラライトでは手間も楽しまなければならない」と勝手に思っていました。 ちなみに、それ自体は今でも正しいと考えています。 そして、合計で20泊くらいしたところで決定的な悪天候に捕まる事態が発生したのです。 13時過ぎに、ある幕営指定地に到着。設営中は霧でしたが、後に崩れて暴風雨に。そこは管理している山小屋まで距離があり、買い物と称して暇潰しに行くのもしんどい。 日没まで、タープの下でずっと体育座り。これが一番キツかったです。初めて私のスタイルを見た友人(小屋泊)は「死んでるかと思ってた」と翌朝。 ハハハ…。いやいや、一度『寝』に入ってしまえば、全く問題ないスタイルなんですけどね。

 気付くのが遅いですが、設営後〜就眠前の「荒天時の居住快適性」の重要性を実感しました。 それからマスプロのツェルトやフロアレスを検討しましたが、快適性のために重量増を選ぶわけで、最後まで抵抗がありました。 そこで出会ったのがローカスギアKhufu CTF3。いやぁガレージメーカーって凄いですね。 使っていたMSRのE-Wing(小型タープ)と比べて、たった33gの重量増で済みます。 しかも、工夫すれば伸縮しないサポートポールで設営できるので、結果的には130g以上軽くなってしまいました。

 現時点では、このフロアレスシェルターをメインに使っています。 ただしKhufu CTF3は莫大な設営面積を必要とする関係で、夏の最盛期・大人気の山域・狭いテント場という三拍子が揃った場所には怖くて持参できません。 例えば穂高岳山荘や槍ヶ岳山荘が該当します。そういう場所と思われるなら、ツェルトを選びます。
 あと同様の理由で、夏の縦走で軽量化装備を試す私の場合、13時前後にはテント場に到着していたいと思います。 この時間帯なら、テント場をベースにしてピストンしている方々のテントが数張ばかり。 普通はテント場がガラガラなので、地面や地形の条件を満たし大きな設営面積を確保できる場所を選ぶことができます。 この時点で気付くかもしれませんが、人気の山域で未明の早朝から夕方前まで歩いて距離を稼ぎたい方には向かないと思います。

 なお2013年の五色ヶ原キャンプ場では、タープ泊で参ったときのような土砂降りに見舞われました。遠くでは雷鳴も。 五色ヶ原は広い緩やか〜な斜面にテント場があるのですが、ペグが利くことを優先して最下段に設営したのが失敗で、土砂降りになったあとの雨水が全てKhufu CTF3に集まってきました。
 当然ながら、シェルターの中は『水深1cmの川』。マットレスに厚さ1cm+5mmを組み合わせ、シュラフカバー持参のため、ダウンシュラフはセーフ。 また普段から地面からの結露で道具が汚れることを嫌がるので、平らな石をシェルターの中に置いています。この上に帽子や防寒着を置いてセーフ。 ザック類は防水バッグの中で、食料はチャック袋の中なので、結局はすべて無事でした。降り始め1時間は慌てふためきましたが、自分と装備の無事を確認できたら、次第に冷静になれました。 過ぎてしまえば、少し気を揉んだ程度です。仲間と話す登山ネタが増えたかな〜と。もう私は、LocusGearのKhufu CTF3で安定でしょう。修理不可能になるまで使い倒しそうです。

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<このページの注意点>
 当ページおよび当コンテンツは、登山用品の軽量化について書かれています。 ただし私自身、登山はベテランでもない初級者であり、これらの情報を参考にするのは閲覧者様の自由ですが、必ず能動的に装備を選んだ上で行動して下さい。
 また、当コンテンツの趣旨や姿勢、対象としては、ごく初心者レベルかつ一般的な登山および道具の特性、その選び方を理解しているが、 そろそろ「自分なり」に向けて一歩踏み出したい方を対象にしており、やや派生した装備選択・スタイルのひとつとして「装備の軽量化」を勧めている、というものです。
 よって、私自身が「ごく一般的な登山装備の基礎知識」と判断したものは、コンテンツが冗長的になることを防ぐために、あえて割愛している部分も多々あります。これら初心者向けのウェブサイトは優れたものが沢山あるので、そちらを閲覧してください。

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